第3回 まんまと相手を言いくるめる逆転の交渉術
第1回は交渉術の根幹部分、第2回目は時間や場所の設定などを中心にご紹介しましたが、今回は実際の交渉の場面で使えるテクニックについてご紹介します。
一度オーケーしたものを「ノー」にしてこそ勝機がみえる
言ったことに無理やり前提条件をつける、オーケーした意味内容の範囲を狭める戦術です。
・自分の言ったことに前提条件を無理やりつける
具体的には、「AをオーケーしたのはBという条件が必要だったんですよ」と後から付け足します。
ポイントは、相手が満たしようのない条件をわざとつけて、逃げるのです。
・オーケーした意味内容を狭める
例えば、交通事故で全額払いの念書を書いた事例で、過失割合5対5の場合に、10払わないといけないようになっているところを、「法律上」全額として5払うよう交渉を持っていくなどです。
一見汚いようにみえますが、これまでの発言や、約束ごとを覆していくことも、交渉の流れを優位にもっていくために必要です。。
立場を入れ替えて考えさせる法
相手方を第三者の立場、こちら側の立場に立たせ、追い込んでいきます。
「あなたが裁判官の立場だったらどうですか?」「あなたも同じ立場だったらどうですか?」
という風に問いかけます。当然、相手方がこちらの立場に立って考える必要はないのですが、今まで執拗に自分の立場だけ主張していた人間が、こちらの話を聞く姿勢になってくることは多いです。
それでも開き直り理不尽な要求をしてくる相手には、こちらも徹底的に理不尽になる開き直りで切り返します。
「いくらゴネたところで自分の思い通りにはならないのだ」と相手に分からせ、交渉のペースをこちら側に持ってきましょう。
ありえない比喩による論理のすり替え法
まったく無関係な比喩によって、相手の主張が間違っているかのような錯覚に陥らせます。
例えば、交通事故の損害額の交渉であれば、「殺人の場合なら、びた一文負けることなく相手方に請求すればよいが、今回は交通事故であり、誰もが加害者になり得ます。だから、今回は我慢してください」と言って、相手を説得します。
これはできるだけ現実離れしたものにするのがポイントです。話のストックを多くもっておきましょう。
交渉とは不満足の分配作業だ
交渉の長期化より、紛争の早期解決が何よりのメリットであると演出していきます。
大前提として「交渉とは不満足の分配作業」だということです。交渉にハッピーエンドなどそうそうありません。
「要求が全て通った」という積極的な満足感がなくても、「不利益がなくなった」という意味での消極的な満足感を共有するのがポイントです。
わずらわしい思いや、金額の駆け引き、裁判沙汰になるかもしれないといった不安から決別できることを相手に喚起します。
期限付きの交渉は不利
相手方が解決期限に縛られていることを察知できれば、交渉を優位に運ぶことができます。
「とにかく年内にまとめてもらいたい」
といった発言があれば、
「そうですねぇ。早く解決したいのはやまやまなんですけど、ヘタしたら年を越すかも分かりませんよ」
「そこを何とか」
「わかりました。ではなんとか時期を早めるようにしますので、ここのところをちょっと考え直してもらえませんか?」
というように、本当は余裕で年内解決ができても、こちらも最大限の努力をしたということにして、譲歩を強調します。
逆に言えば、期限付きの交渉は不利となるので注意しましょう。
相手方の「言ってない」を完封する記録の方法
記録をとる段階で、相手方の逃げ道を塞ぐようにします。相手方の記憶を喚起できるくらい具体的で詳細な記録をとりましょう。
ここでも、抽象的な表現は避けて、具体的に言葉を絞ります。言葉の意味する範囲をできるだけ限定しましょう。
相手方の「譲れるところ」「譲れないところ」を明確にすることを意識して記録します。
本当に基本的な項目だけに絞って、できる限り具体的で詳細に書き残し、可能なら相手方のサインを貰いましょう。
基本的な項目とは、次の4つです。
1 日時
2 場所
3 相手方
4 主張・譲歩
この際の注意点として、次の3つがあります。
1 会話は一問一答形式で書いていく
2 発言内容の主語は明確にしておく
3 記録者が感じた主観と、会話に出てきた事実はきちんと区別する
相手方をA、こちら側をBとして、必ず会話形式で書き、シナリオのような書式でまとめましょう。
味方の決定権者にも注意を払う
交渉とは相手側だけではなく、味方の決定権者に対しても細心の注意を払って進めていきましょう。
ポイントは、正確で厳しめの見立てを設定しておくことです。交渉が始まる前に、味方の決定権者に対する期待値を必要以上に上げ過ぎないようにするのがポイントです。
本当の落とし所は、相手方はもちろん、味方にも秘密にする必要があります。
その際は、最良の場合と、最悪の場合の二つをシミュレーションしておくことが重要です。特に、最悪の事態をシミュレーションできるということは、その事案をよく理解していることにつながります。
「初めにルールありき」の交渉は必ず失敗する
紛争の当事者にとってハッピーなのは早期解決。法律などのルールはあとからついてきます。
「法はこう言っている」というような神学論争めいたお題目を唱えているだけでは、事は一向に進みません。
法律が「主」ではなく、紛争の早期解決が「主」です。常にゴールを意識しましょう。
相手の矛盾はその場で必ず指摘する
たった一つの言い逃れを見過ごすと、相手方は際限なく言質を翻します。
相手の矛盾を見つけた時は間髪いれず、
「そんな前提はさっきつかなかったじゃないですか」
「どこにそんな記録があるんですか」
「そんな前提を今更持ち出すのはおかしいでしょう」
「さっきと話を変えるんですね。あなたはそういう卑怯な人間なんですね」
などのセリフで相手方を攻めましょう。
まとめ
今回は、交渉でよくある「言った言わない」に対する対策を中心に、交渉を有利に進めるためのテクニックをご紹介しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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