第4回 自分の土俵に引きずり込む話術のポイント
第1回は交渉術の根幹の考え方、第2回は時間や場所の設定などに関してご紹介しました。今回は、第3回に続き、交渉中に使えるテクニックを中心にお伝えしていきます。
ピンチを切り抜ける言い訳
こちらのミスによって、意図せず窮地に陥ることがあります。しかし、ここで正直に自分の過ちを認めても、交渉においては何のプラスにもなりません。
正直にいったところでなんのプラスにもならない場合は「うそ」も含めた言い訳が必要となります。
言い訳は相手方の価値観や重視するものによって使い分けます。以前ご紹介したように、ここでも相手に合わせた「大義名分」を使います。
例えば、会社員であれば取引関係のこと、ヤクザであれば親の死に目の話を出すなどです。
こういうやりとりも含めて「交渉」と割り切る能力が必要です。
感情的な議論から逃れる方法
交渉中、個人攻撃が始まったら、流れを遮断することが大事です。背景には、感情的な問題があります。
「考えを正してやろう」と言った個人攻撃に議論が発展してきた場合は、次のフレーズで相手を制しましょう。
「この話し合いの目的をはっきりさせてください。どちらの意見が正しいかを決める場なのか、それとも紛争解決をする場なのか。もし私の意見を正そうとすることが目的なら、私は拒否させてもらいます。」
担当者が代わることで起こる形勢の逆転
交渉の進展に役立つなら、たとえ演技でも部下を叱責しましょう。必要なら打ち合わせやリハーサルをしましょう。
担当者が代わる時は一気に交渉が進展するチャンスとなります。理由は、これまでの担当者が行っていた取り決めなどは、一気に白紙にもっていくことができるからです。
かつてのソビエトや中国で、指導者が代わるたびに、外交政策が転換したのと同じです。
交渉の仕切り直しにより、さまざまな新たなバリエーションで以後の交渉に臨んでいくことができます。
「知らない」「聞いていない」の使い方
前任者の引継ぎや上司の代理で交渉に当たるとき、「知らない」「聞いていない」は方便(便宜的な手段)です。
この手のセリフは交渉においては、言われた方も、不快感を持つでしょう。しかし、交渉には、無駄な事を喋りすぎるマイナスより、何も喋らないマイナスをとった方がいい局面もあります。
交渉では、謝罪からのスタートは明らかに不利です。謝罪を少しでも遅らせるということも必要となります。イメージとしては、以下のようなやりとりで切り抜けます。
「今日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます」
「今日は、⚪︎⚪︎部長はなんで来てないの?」
「と申しますと?」
「この間会った時、『お宅には御迷惑をお掛けした。この件は私が責任をもって解決に当たります』そう言っていたんだよ。それが今日はいない。どういうことだ。」
「ああ、そうでしたか。確かに⚪︎⚪︎は今回の件で解決策に奔走していました。ただ本日はたまたま関西へどうしても外せない出張が入りまして、私が代わりに伺うよう言われたのです」
「約束が違うじゃないか。⚪︎⚪︎から直接連絡をするのが筋じゃないか」
「その点については、私も⚪︎⚪︎からよく事情を聞いていない部分がありました。その点はお詫びします。ところで、⚪︎⚪︎の努力もあって、きっとご満足頂ける条件を揃えて参りましたので、早速本題に入らせていただきます」
言い方の簡素化で、感情的な相手の気持ちを整理させる
本題と関係ない話で激昂している相手に対しては、言い方を簡素化させることで原因に気付かせましょう。
感情的になっている相手には共通する点があります。それは、本題と関係ない話で激昂している場合が多いということです。こういう場合、
「だから、何なんですか?」といったセリフは禁句です。こういう場合、
「その発言の主旨は何ですか?今回の件とどの様な関係がありますか?それに私が応じることで紛争の解決にどうつながりますか?」
という問いかけを繰り返し投げかけます。
こうして、言い分をよく聞き、相互の主張と譲歩の組合せにどう反映させるかということに神経を集中しましょう。
交渉における電話での注意点
電話での言葉の応酬では、言われたら必ず何か言い返しましょう。相手方にペースを握らせないのがポイントです。
反射神経の訓練だと割り切って、必ず何か言い返しましょう。
目の力が交渉を支配する
相手に対する目の威力は重要です。相手と視線を合わせて話せるよう日頃からトレーニングしましょう。
ただ見るのではなく、「見据える」といった感じです。交渉とはそういった気迫や勢いに非常に支配される部分があります。
相手に考える間を与えないテクニック
交渉には勢いが必要です。相手が揺らぎ出したら考える時間を与えず一気に結論にもっていきましょう。
交渉とは陸上競技の種目で言えば「短距離走」です。その場その場での即決が重視されます。
相手方の「ちょっと待ってくれ」といった苦し紛れの時間の要求は、明らかにこっち側の要求に相手方が傾き出している証拠です。一気にたたみかけましょう。
必敗が濃厚になってきたときの切り返し術
相手方が調子づいてきた時は、リズムを狂わせましょう。トイレ休憩などで時間をおきましょう。
危なくなったら休止するのがベストです。スポーツでもタイムアウトをとります。
話の内容ではなく、リズムにこだわるのも重要です。
感情的な議論をふっかけて流れを変える
交渉の流れが明らかにこちらに不利になってきたら、不毛な議論をふっかけて煙に巻きましょう。
交渉の途中で、自分の発言の不当性や矛盾に気づくことがたまにあります。どんなに不当なことでも、矛盾していることでも、自分に不利益になることは知らんぷりを決め込みましょう。
相手方に気付かれてしまったら、自分でコントロールできるように細工した「感情的な議論」を使います。
無益で感情的な論争をわざとふっかけるのがポイントです。当然頭の中は冷静で、真の目的は相手方に傾いた流れを変えることです。
さんざん話し合いを荒らしまくっておいて、最後の決め台詞にもっていきましょう。
「こんな無益な議論はもうやめましょう。こんなことやってても先に進みませんから」
相手と共通の座標軸を設定すること
相手方と共通の基盤は最初はありません。その場で話を聞きながら作っていきます。
座標軸の設定とは、最低限、相手の言っていることが理解できる状態を作るということです。
色々な業界で何がメリットで、何がデメリットなのか、知っておくのが大事です。
これらは、経験を通じて獲得されていきます。
理想の交渉人とは、あらゆる業界の問題に通暁した究極のジェネラリストともいえます。そのためにも、異業種の人との出会いは大事にしましょう。
感情に流されないのが真の交渉人
相手方を好き嫌いレベルで判断しないこと。冷静に損得感情で話を進めていきましょう。
一言で言うと、交渉の場で一切の感情的なものを排除できる能力が必要ということです。
車を買う時をイメージしてください。たとえ、性格や言動に多少問題があっても、よい車をより魅力的な条件で売ってくれるセールスマンが、買い手にとって優秀と言えるのではないでしょうか?
人間性を切り離したところで、交渉の技術(結果を出すこと)が優れていれば、やはりプロとして認めざるを得ません。
相手方の情報がない場合
事前に相手方の情報がなくても、その場のコミュニケーションだけで有利な立場を築きましょう。
交渉の相手方とは、対面してからが勝負です。現場でのやり取りでその後の流れが決まります。
事前の情報があるなしに関わらず、相手方に対しては、対面するまではあまり余談を抱かない方がいいです。
大物は高級車に似ています。ノイズは殆どないのに、スピード・パワーともにすぐにトップに達します。軽クラスのエンジンのようにいきなりキャンキャンふかすことはありません。
まとめ
以上、実際の交渉時に使いたいテクニックを中心にご紹介しました。
次回で最終回になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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